ホーム > 日外協の活動 > 非公開: 調査・研究 > 「海外・帰国子女教育に関するアンケート」調査結果(2007年)
業務部が標記アンケート調査を実施し、このほど、その集計結果がまとまりましたので下記の通りお知らせいたします。
本調査は、1999年から隔年実施していますが、今回の特徴は「増加傾向の海外派遣者数と微増の海外子女数」で、海外・帰国子女教育に関する課題とともに発表いたします。
今回は、独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所との協働で、「障害のある子どもの教育に関する企業意識調査」も実施したため、同研究所によりまとめられた報告書の概要も掲載します。
会員企業の海外派遣社員数・家族帯同者数・海外子女数、海外・帰国子女教育相談の状況、および様々な問題点(日本人学校、補習授業校、現地校・インターナショナルスクール、帰国子女教育)などの把握を目的として1999年から隔年実施しているものです。
当協会会員企業322社(2007.4.1現在)のうち団体、研究機関などの賛助会員を除く273社に対し調査票(PDF:175KB)を送付し、各企業からはファクシミリによる回答をお願いした。
上記企業の海外子女教育担当者
2007年9月3日(月)(アンケート用紙発送)~10月10日(水)(回答期限)
273社のうち114社から回答を得た(有効回答率42%)。
主な調査結果のポイントは次の通り。
海外派遣者数は合計25,180人(回答114社)、平均221人である。家族帯同者数は合計13,240人(回答114社)、平均116人で、家族帯同比率は52.6%である。海外子女数は14,689人(回答109社)、平均135人である。回答数、回答企業が前回と各々一致してはいないが、平均を比較した(グラフ1)。
グラフ1.海外派遣者数・家族帯同者数・海外子女数(平均)(単位:人/会社)
海外派遣者数の増減傾向(回答100社)は、2年前と比べ、「増加」(42%→48%)、「横ばい」(44%→46%)、「減少」(11%→6%)となり、「増加」が最も多くなった。
海外子女数の増減傾向(回答53社)は、前回と比べ、「増加」(24%→29%)、「横ばい」(67%→57%)、「減少」(9%→14%)となり、「横ばい」が減少した分、「増加」と「減少」の両方が増えたが、「横ばい」から「増加」にかけての回答が多い。
人数の平均は、回答企業の規模の構成が影響するため、大規模、中規模、小規模進出企業別に整理したのが表1である。ここでは、「大規模」進出企業は海外派遣者数500人以上、「中規模」は100人以上499人以下、「小規模」は99人以下とする。
2005年と2007年を比較すると、海外派遣者、家族帯同者、および海外子女数の全てについて、中規模と小規模が減少し、大規模進出企業の割合が約20%前後と大幅に増加している。そのことが、グラフ1のそれぞれの平均人数増加に大きく影響している。
表1.海外派遣者人数規模別分類表
そこで、3回(2003年・2005年・2007年)連続アンケート回答した企業(41社で今回回答企業の36%)で05年と07年を比較すると、海外派遣者数は微増、家族帯同者数は微減、海外子女数は横ばいであった(グラフ2)。
グラフ2.海外派遣者数・家族帯同者数・海外子女数(3回連続回答企業)(単位:人)
2005年と2007年の2回連続回答企業は68社(回答企業の60%)で、海外派遣者数は増加しているが、家族帯同者数は微減、海外子女数は微増である(グラフ3)。以上の諸分析より、海外派遣者は増加傾向にあり、海外子女数は微増の状況である。
グラフ3.海外派遣者数・家族帯同者数・海外子女数(2回連続回答企業)(単位:人)
地域別派遣者数の合計は24,525人(回答107社)であった(前回の05年は25,629人、回答147社)。アジア計(含、中国)で50%超、欧米で40%弱、両者を合わせて9割という状況に大きな変化はないが、人数は中近東が増えていること、その他アジアの割合が3%減少して中国、北米、中近東などの割合が1%ずつ増加したことが今回の特徴である(表2)。
表2.地域別派遣者数と構成比(単位:人、%)
年代別家族帯同者数の合計は11,985人(回答113社。グラフ4)。子女を帯同していると思われる30代と40代の割合はそれぞれ40%前後、合計で80%強は今までの調査と同様の状況である。
グラフ4.年代別家族帯同者数と構成比
106社から回答(回答114社の93%で人数合計は14,689人)。未就園児、幼稚園児、小学生の合計は79%と前回同様であり、引き続き帯同子女の約8割は小学生以下の状況である。
グラフ5.海外子女の就学状況
表3.社員のための海外・帰国子女教育相談
114社(全回答の100%)が回答(表3)。「担当部門有り・相談員無し」と「アウトソーシング」の構成比が増加傾向にあるが、3回連続回答企業および2回連続回答企業の集計でも増加傾向にあるのは「アウトソーシング」である。
構成比の最も高い「担当部門無し」と回答した企業の理由は、「各部門で個別に対応している」、「必要に応じて外部機関紹介などの対応をしている」、「対象者が少ないため」、「人手不足のため設置が無理である」、「基本的には個人の問題と思うため」などである。「人員的に担当部門設置が無理でも海外子女教育振興財団へ相談するよう指導している」との声もあり、担当部門がなくとも必要に応じた対応が求められている。
また、相談員有り15社のうち、常勤は10社、非常勤は5社、両方いるは無しである。前回は相談員無しだったが今回は相談員有りの常勤とした会社は3社あり、前回は常勤だったが今回は非常勤とした会社は1社である。
自由記述の設問に対して、67社から89件の回答があり、内容を整理したものがグラフ6である。
グラフ6.日本人学校に関する問題点
主な意見・要望として、「赴任地に無い」は22件で、89件の回答中最多の25%を占めている。特に中国の地方都市で不足しているため家族帯同が難しく、また子女を学校のある都市に居住させている勤務者が「中国国内単身赴任」するケースが発生している。次に多い「教育レベル」は18件(回答中の20%)で、日本と同レベルの教育を受けられていないことの他に、教員の任期が比較的に短く入れ替わりが頻繁なことも含んだ問題であり、もっと大胆に海外の言語や文化を取り入れる工夫がほしいという意見も含めた。「高校が無い」は6件(同7%)で、インターナショナルスクールは金銭的にも精神的にも負担が大きいことから、家族のみ帰国させる駐在員は多く、高校受験に関わる「進路指導」が足りないという声に関係している。その他、海外派遣者の乳幼児および幼稚園児数の多さ(海外子女数の4割)から幼稚園増設の要望もある。
地域別派遣者数でみたように、中国への派遣者数は増大しているが、中国での日本人学校不足により家族帯同が難しい状況が、冒頭の「増加傾向の海外派遣者数と微増の海外子女数」に影響しているように思われる。
45社51件の回答があった(グラフ7)。最多の「授業内容」は、文部科学省より派遣をいただけない地区の教育内容の不十分さや、日本語学習に不安を感じることなどで、15件(回答中の29%)である。次に多い「子供の負担」の重さは、現地校・インターナショナルスクールとの両立のために詰め込むのが良いのか、余裕を持った教育が良いのかのジレンマでもあり、6件(同12%)である。移動距離に関する「通学が困難」も6件(同12%)で、これは「学校数が少ない」3件と相通じる問題だ。「教員の確保」4件(同8%)は派遣教員枠が柔軟でないために生じ、少人数地域における「運営の維持」3件(同6%)と相通じる問題である。
グラフ7.補習授業校に関する問題点
72社74件の回答があった(グラフ8)。最多は「教育費の負担」の22件(回答中の30%)で、「教育費補助では不足し社員に負担が大きい」や「半額本人負担のため授業料が高額」などの声があり、3番目に多い「教育費補助のあり方」8件(同11%)に関係している。2番目が「言葉のハンディキャップ」12件(16%)で、高学年での帯同になればなるほど授業への適応が不安になってくる。「日本語力の低下」7件(9%)は、未就学児の日本語習得問題、および日本語を使う頻度が少ないことによる小学生以上の日本語読み書きの低下である。
その他、情報が少ないことによる「実態を把握できない」は、日本人学校および補習授業校にもある共通の問題で、各校のHP作成と充実および詳しい資料が必要になっている。
グラフ8.現地校・インターナショナルスクールに関する問題点
自由記述回答の設問に対し90件の回答があった(グラフ9)。帰国子女受け入れが少ないことによる「受入校・人数の拡大」は27件(回答中の30%)と最も多く、その内「地方都市に受入が少ない」というコメントが6件ある。2番目に多い「入試制度の柔軟化」は22件(同24%)で、入学試験実施時期が限定されていることの不満から「受け入れ時期の通年化」を希望するコメントや、「受験機会の拡大」の要望がある。次に多い「国内適応教育の充実」11件(同12%)は、帰国子女に対して語学および日本社会への順応性を教育する必要性が高いという声で、「国内受け入れ教育の充実」7件(同8%)は、いじめなどが発生しないような受け入れの配慮や異文化コミュニケーション教育を行なってほしいとの要望である。以上の問題は2年前の前回調査でも多かったもので、受け入れる学校と人数枠の拡大および入試方法の柔軟性や、教育内容の充実が引き続き求められている。
また、帰国子女の従業員の有無は、「いる」:71社(全回答会社114社に対して62%)、「いない」:10社(同9%)、「分からない」:32社(28%)、無回答:1社(1%)で、「いる」の人数は、把握してなく不明という回答が多いが、1人~数十人(相当数)の範囲である。
さらに、帰国子女の積極的採用については、「したい」:15社(13%)、「したくない」1社(1%)、「どちらでもない」88社(77%)、無回答:10社(9%)。積極的採用したい会社は、さまざまな規模の企業であり、理由は、「グローバル人材の確保」、「語学、異文化理解等の面で業務に海外経験を活かし、即戦力になるから」などである。どちらでもない会社の理由は、「本人の意欲により、分け隔てなく受入れる」、「特別の扱いはなし」などである。
グラフ9.帰国子女教育に関する要望
「教育費補助の実態・支給基準」が多く、その他は、「子女のメンタルヘルスケア(帰国後のカウンセリングなど)」、「海外の教育事情や日本人学校等を見学するツアーの企画」、「日本人学校、補習校の増設など海外での子女教育制度の充実を図れるようにしてほしい」、「赴任者のあまり多くない地域での子女の教育例」などである。
当協会では、以上の調査結果をもとに、今後も講演会セミナー・研修啓発活動等を推進しながら、海外子女・帰国子女教育制度の充実に貢献していきたい。